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三菱電線工業株式会社(東京都千代田区)

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三菱電線工業株式会社
(東京都千代田区)

保健師井上さんと臨床心理士佐藤さん保健師井上さんと臨床心理士佐藤さん 吉岡さんと保健師早野さん吉岡さんと保健師早野さん三菱電線工業は1917年(大正6年)設立。シール製品や光ファイバ部品・光応用製品などの製造、販売を行っている。
三菱電線工業の従業員数は761名(2022年3月現在)。従業員の約7割は箕島製作所(和歌山県)に所属している。
今回は、管理部ウェルネス推進室の吉岡道彦さん、保健師の早野恵子さん(東京地区担当)、保健師の井上歩美さん(箕島地区担当)、看護師の杉岡亜紀さん(箕島地区担当)からお話を伺った。

各事業所の体制や課題に応じて、保健師等による全員面談を実施したり、復職者の再発防止に力を入れたりと、柔軟に対応している

まず、職場のメンタルヘルスに関する取組みについてお話を伺った。

「ストレスチェックは2016年度から始めました。受検率は、2021年で98.0%と高い方だと思います。集団分析結果として、仕事のストレス判定図に基づく“総合健康リスク”を算出しています。また別途、産業医科大学の協力のもと“メンタルヘルス風土評価尺度(WIN)”の調査も行い、その結果に基づく“メンタルヘルス風土”も算出して、事業所別に推移をまとめています。」

「事業所別推移の結果(【図1】参照)をみると、2020年から2021年にかけて、事業所Cの総合健康リスクが低下し、メンタルヘルス風土指標が向上していることがわかります。この事業所では、2021年2月から従業員参加型ワークショップを実施したのですが、それがこの結果につながったのではないかと考えています。」
(※従業員参加型ワークショップについては後述)

【図1】ストレスチェック集団分析結果の事業所別推移
【図1】ストレスチェック集団分析結果の事業所別推移

「セルフケア研修とラインケア研修は、それまで不定期に実施していたのを、2018年からは毎年実施する形としました。また、2020年度以降はコロナ禍のため、オンラインでの実施も併用しています。」

「各事業所には保健師等が配置されており、従業員からの相談に応じる体制が整っています。従業員への相談窓口の周知もしていますが、それでも自分から相談にきてくれる人は少ないので、東京地区と尼崎地区では、毎年1回、保健師等による全員面談を実施しています。1人15分程度で、東京地区はオンライン、尼崎地区は対面で実施しています。実施時期は、健康診断とストレスチェックの結果が出てきた頃に設定しています。併せて残業時間などの情報も確認し、必要に応じて産業医面談につなげたりしています。」

「箕島地区は、保健師等が2名配属されていますが、従業員数も多いため、全員面談は実施していません。その分、メンタルヘルス不調の方や、就業制限がかかっている方に手厚く対応するなど、再発防止に力を入れています。職場復帰に当たっては、事務部の部長と保健師等が本人と面談を行い、今の状況や体調、主治医の見解、仕事に対する想いなどを、本人が安心して話せるように配慮しながら聞き取っています。必要に応じて主治医に訪問して、話を聞くこともあります。その上で、産業医面談を復帰前に行うと共に、復帰後も定期的に実施しています。また、箕島地区では月2回、臨床心理士によるカウンセリングを行っており、本人への面談に加えて、上司面談も行っています。特に、復帰者の上司は必ずしもメンタルヘルス疾患への理解があるわけではありません。そのため、復帰者の状態が100%の状態ではないことなど、復帰者の関わり方や接し方などを伝え、上司を支援しています。」

健康経営、自社の継続課題、コロナ禍での従業員のニーズなど、様々な情報からコミュニケーション推進活動の必要性を導き出し、具体的に取組みを進めている

次に、健康経営の取り組み状況についてお話を伺った。

【図2】健康経営推進体制【図2】健康経営推進体制 「2020年度から健康経営に取り組むことになり、2020年10月に“健康経営宣言”を策定しました。スローガンは、『みんなが明るく元気で、活気のある会社をつくります』です。また、健康経営を推進するために“ウェルネス推進本部”を作り、組織横断的に取り組んでいます。ウェルネス推進本部は、保健師等の在籍する産業保健部門が中心になっていますが、それだけではなく、経営企画部や人事労務部門、安全衛生部門、労働組合など、部門横断的に話を進めるという体制で行っています(【図2】参照)。」

「取組みをはじめてみて、“健康経営”の考え方を従業員の皆さんに理解してもらうことの難しさを感じています。工場部門からすると生産性が第一優先ですので、お客様への対応で忙しい中、なぜ健康経営の活動をいろいろとやらなければならないのか、という意見もありました。従業員に投資することが当社の未来につながるということを、まずは職制を通じて理解してもらうために管理職向けの説明会に力をいれています。約2年かけて、少しずつ浸透してきたかなと感じています。」

「それと特に“コミュニケーション推進活動”に力をいれています。これは、健康経営をスタートするにあたって抽出した6つの課題の中の1つです。当社は2017年に品質不具合問題が顕在化し、その対策にずっと取り組んできたのですが、中でもコミュニケーション不足が課題とされており、メスを入れる必要性を感じていました。ただ、『コミュニケーションが大事』と、言うことは簡単でも思うような取組みが進んでいませんでした。そこで、健康経営の活動をきっかけに、これまでと違うアプローチを行ってみることにしました。」

「従業員からの声も、取組みを進める後押しとなりました。2020年新型コロナ感染症防止のため東京地区の従業員は一斉に在宅勤務を課せられました。例年体調管理のための全員面談を実施していますが、この時には急遽10分程のオンライン面談で体調確認を全員に行いました。その中で、従業員間のコミュニケーション不足を感じているという声が多数出てきました。もともとコミュニケーションに関する課題がありましたので、ならば実行に移そうと、従業員参加型ワークショップの実施につながりました。」

従業員が主体的に取り組むことができるように従業員参加型ワークショップを設計し、オンラインでもスムーズに意見交換できるよう工夫し、スモールチェンジを積み重ねている

最後に、従業員参加型ワークショップの具体的な取組内容についてお話を伺った。

【図3】従業員参加型ワークショップの進め方(イメージ)【図3】従業員参加型ワークショップの進め方(イメージ) 「従業員参加型ワークショップは、グループワークを通じて従業員同士が意見を言い合うことができる機会を作り、それが、従業員がいきいき働ける職場環境というゴールにつながっていくことを目指して組み立てました。ワークショップの内容は、AI(Appreciative Inquiry:アプリシエイティブ・インクワイアリー)手法を参考に作成しました(【図3】参照)。この進め方ならば、取組みをポジティブに考えることができてとてもいいなと感じ、積極的に取り入れました。」

「これまでの改善手法は、“問題解決型アプローチ”が多かったかと思います。どこにどのような問題・原因があるのか、その原因を取り除くためにいつまでに何をやるのか、そして実際に解決できたのか都度確認する、というような進め方です。そのため、どうしてもトップダウンで進めてしまいがちです。そのような進め方が多かったからか、結局それでは何も変わってこなかったのではないか。そこで視点を変え、常にポジティブに考えていく場をつくり、意見を引き出すためうまくファシリテーターが声がけしながら、社員自身がどのように関わったらいいのかを考える“ポジティブアプローチ”にたどり着きました。」

「そして、もう一つ大切にしている考え方が、“スモールチェンジ”です。目標を立てる際に根本的な原因を取り除こうと、つい考えてしまいます。そうすると実行するのが難しい対応策になってしまいがちでした。そうするとそもそもの行動に移せなかったり、良い結果が出なかったりして、結果的に報告しづらく達成感を味わえなくなってしまいさらにその次のステップに進めなくなる、といった悪循環が生じていたように思います。そのような課題を感じていた時に、“スモールチェンジ”という考え方に出会い、なるほどと合点がいきました。それから社内でも強調していくようにしました。今では社長も含め、皆が“スモールチェンジ”を自然と使っていて、定着してきていると感じています。」

「ワークのテーマは部課長に考えてもらいました。部署によって抱える課題は異なると思いますので、参考となるテーマ例を示した上で、私たちからは指示しないようにしました。そうしたところ、“相手の業務を思いやる心を持ちながら、仕事が行える職場”、“やる気を持続できる職場環境”、“社内の他部署との接点を活性化する”など様々なテーマが出てきました。」

「ある部署では“業務の助け合いについて”というテーマについてグループワークを行いました(【図3】参照)。まず、このテーマを踏まえて、“自分たちの職場の強みは何だと思うか”話し合ってもらいます。たとえば、『多様な人がいます』とか、『人の話を聞けるような雰囲気があります』とか、なんでもいいのです。次に、“そのテーマについて過去に良かったと思ったことはないか?その時には、どんな工夫があったのか?何を感じたか?”ということをみんなで語り合ってもらいます。そして、“何をすればもう一歩進めると思うか”を意見交換してもらう。最後に“スモールチェンジ、小さな一歩としてみんなでできることを何か1つ探してみよう“と、みんなで決めてもらい、簡単でできそうなことから1つずつやってみましょう、という流れで実施しました。挙げられた小さな一歩は、『机をきれいにする』、『帰る時に声かけをする』など、なんでもいいんです。人に言われてやるのではなく、自分たちが決めてやってみて、その上で“できた”と感じることが重要だと考えています。そこを皆に意識してもらえるようなグループワークの構成にしています。」

「コロナ禍での実施でしたので、グループワークは、ほとんどをオンラインで実施しました。先行事業所では約20部署それぞれ1部署ごとに、1回につき60分程度です。部課長自身に、自分がグループワークに参加するかどうかを決めてもらいましたが、意見が出なくなる事を懸念して、参加しない選択をされる方が多かったです。ファシリテーターは、オンライン上で見まわりながら、全員がまんべんなく発言できるよう、配慮しました。終了後には、参加者から『あの人はこんなことを言うんだ』、『こんな風に日頃思っていたんだ』、などの感想が聞かれ、同僚同士それぞれに気づきがあったようです。実際に行ってみてはじめてこうした形でのグループワークの効果を実感しました。」

「オンラインでは、表情や雰囲気がわからないといった難しさは感じましたので、ファシリテーターから、『〇〇さん、書けた?』など、なるべくこまめに声をかけるようにしました。また、どうしても共有の情報が少なくなりがちなので、今出ている意見を板書ファイルに書き込み共有することにしました。入力に時間がかかったり、途中で画面がフリーズしたりと問題は様々発生しましたが、参加者が皆で協力し合うと共に、事務局側も様子を把握し都度声がけすることで、活発な意見交換が可能になりました。対面で実施できることが理想ですが、オンラインでもなんとかできそうだということを実感しました。」

「この取組みのすべてがうまくいっているわけではありませんし、まだまだ課題もあります。しかしながら、次にやった時には、さらにうまくいくかもしれないと楽観的に考えて進めています。スモールチェンジで少しずつ進める事により、継続実施のハードルを下げて、いずれは全ての従業員が主体的に健康経営に取り組んでもらえるようになればと考えています。」

【ポイント】

  • ①各事業所の体制や課題に応じて、保健師等の全員面談を実施したり、復職者の再発防止に力を入れたりと、柔軟に対応している。
  • ②健康経営、自社の継続課題、コロナ禍での従業員のニーズなど、様々な情報からコミュニケーション推進活動の必要性を導き出し、具体的に取組みを進めている。
  • ③従業員が主体的に取り組むことができるように従業員参加型ワークショップを設計し、オンラインでもスムーズに意見交換できるよう工夫、スモールチェンジを積み重ねている。

【取材協力】三菱電線工業株式会社
(2022年10月掲載)